ベトナム

2 章 投資環境

    • ベトナムの投資環境

      ■ベトナムの投資環境

      201941日のベトナムの総人口は96,208,984人で、そのうち男性人口は47,881,061人(49.8%)であり、女性人口は48,327,923人(50.2%)です。この結果、ベトナムは世界で15番目に人口の多い国であり、東南アジア(インドネシアとフィリピンに次ぐ)で3位にランクインされています。

      平均年齢は31歳と約10年前の平均年齢20代後半よりも少しずつ上がってきていますがまだまだ若い人材が多いため、働き盛りの人材が豊富です。1人当たりのGDPも急速に伸び続けており2,590USドル(2018年)で、貿易収支も黒字になっています。タイ、マレーシア、インドネシアといった近隣のASEAN諸国に比べると低く、これからの伸びしろが大きいのも魅力的といわれるところです。

      また、中国やタイに比べて安価な労働力が得やすいことや、政情が安定していることに加えて、親日的な国柄で、日本語を話せる人材が比較的多いことなどもあり、日本からの投資が非常に伸びています。

    • 日本企業(製造業)を対象としたアンケートより

      ■日本企業を対象としたアンケートより

       

      国際協力銀行(JBICJapanBankforInternationalCooperation)が行っている、「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告――2018年度海外直接投資アンケート調査結果(第30回)」によると、中期的に見て事業展開が有望と思う国としてベトナムは4位に挙げられています。順位としては前年より1ランクダウンしており、得票率は33.9%と前年の38.1%と比べて下降しましたが依然として上位をキープしており、日本企業にとってベトナムは有望な投資先であるとみなされています。

      特に、次の図のとおり、「現地マーケットの今後の成長性」について多くの企業が高い評価をしています。ベトナムの現在の人口ピラミッドを見た場合、人口のボリュームゾーンが20代中盤から後半にあり、今後はこの世代が結婚をし、子供を産み、車や家を買い、子供を学校に行かせるなどして、一気に消費が拡大することが予想されます。この人口構成は、1960年代に高度成長期を迎えた日本の人口ピラミッドと酷似しており、ベトナムは今まさに高度成長期を迎えようとしているのです。

       

       

       

      出所:World Fact Book

      https://www.census.gov/data-tools/demo/idb/region.php?N=%20Results%20&T=12&A=separate&RT=0&Y=2019&R=-1&C=VM

       

      ベトナムは生産拠点としての投資だけでなく、国内マーケットを意識した投資が今後さらに増加していくものと考えられます。また比較的「安価」で、「勤勉」な労働力があり、中国の約3分の1、タイの約2分の1の人件費なので、や、人ビジネスとして魅力的です。また国内販売において、規制緩和によって、外資100%で参入ができるようになりました。いまだに業種によっては規制がありますが、このような規制緩和が行われてゆけば投資環境としては伸び代があります。さらに、「他国のリスク分散の受け皿として」との回答も多く、やはりチャイナプラスワンとしてのベトナムの意味合いも大きいといえます。

      その一方、課題としては、人件費の高騰、法制度運用の不透明さ、管理職クラス人材の不足、インフラの未制備、将来的な人口増加率の低迷等があります。

       

       

       
       

      出所:ベトナム法・政令

       

      出所:日本貿易興機構(JETRO

      201812月アジア・オセアニア進出日系企業実態調査』
       
       
       
       
       
       
    • 「ビジネス環境の現状2013」(アンケート)より

      ビジネス環境の現状2019」(アンケート)より
       

      世界銀行と国際金融公社(IFCInternationalFinanceCorporation)が共同で行っているアンケート調査「ビジネス環境の現状2019」(201810月発表)では、ベトナムの投資環境の課題が浮き彫りになっています。

      この調査で、ベトナムは投資環境ランキングの総合順位が190の対象国・地域中69位です。近隣のマレーシア(15位)、タイ(27位)と比べると大きな開きがあり、世界的に見てまだ高いとは言えないランクにあります。「電力の調達」が大きく改善された一方で、「税金の支払」が大幅にランクダウンし、

      全体評価は68位(2018年)から69位(2019年)とランクダウンする結果となりました。

      一般に、行政手続の不透明さ、法制度の未整備・運用変更などを懸念する声は多く、ベトナムでの投資リスクと考えられています。今後の改善が最も期待されるところです。
       

      【ベトナムのビジネス環境ランキング】

       
       
    • 金融(株式)市場

      ■金融(株式)市場

      ベトナムには、ホーチミン証券取引所(HOSEHoChiMinhStockExchange)とハノイ証券取引所(HNXHanoiStockExchange)の2つがあります。

      ドイモイ政策が打ち出された後に準備が始まったため、どちらも2000年以降に設立されており、ベトナムの証券市場の歴史はまだ浅いといえます。

      ホーチミン証券取引所は2000年に、ハノイ証券取引所は2005年に証券取引センターとして開設され、2007年に現行のハノイ証券取引所となりました。2005年においては取引所・センター合わせて50銘柄にも満たなかったのですが、その後、多くの国有企業が株式会社化して上場したことなどもあり、上場企業数は増え続け、20196月時点では両取引所合わせて約750社となっています。

      ホーチミン証券取引所では比較的大企業の株式取引が多く、2019628日現在で株式上場企業数は約377、時価総額は約4,340兆ドン(約205,000億円)となっています。

      ハノイ証券取引所はどちらかというと中小企業の株式や債券の取引が多いのが特徴です。20196月現在の株式上場企業数は約379で、時価総額は約195兆ドン(約8,966億円)に留まり、ホーチミンとハノイでは大きな差があります。

      新興国株式指数(MSCIFrontierIndex)にベトナムが入り、まだ規模が小さいながらもベトナムの証券市場は世界的にも注目されつつあります。しかし、法制度やシステムを支えるインフラに課題が多くあることも事実です。ベトナム政府は証券市場構造計画(2020年)や2025年までに証券投資家数を人口の5%に増加させるビジョンを示しています。さらなる国営企業の株式会社化、コーポレート・ガバナンスの強化、インフラの整備、金融派生商品の開発といった具体的なテーマと目標を掲げ、ベトナムの証券市場の育成に対する積極的姿勢を明確にしています。
       

      出所:Bloomberg

    • 為替レート

      ベトナムの通貨ドン(VND)はデノミ(通貨単位の切り上げ)が必要なほどの水準にあるといわれています。慢性的なインフレ状態により近年は10%を超える高インフレが続いてきたことによります。このインフレは、急激な経済成長により増大している内需に対して国内の生産能力が追いついていないことや、天然資源に恵まれていないことによる輸入超過によって、貿易赤字と経常赤字が続いていた背景があります。これにより、ベトナム政府は2011年から経済政策を引き締めへと転じ、インフレ抑制に本格的に取り組みました。2015年に貿易赤字を出したもののその後2019年までは、貿易黒字を出しています。

       

      ベトナムにおいては、中国などと同様に管理フロート制が採用されており、ベトナム中央銀行が介入しレートを安定させています。中央銀行が導入する公定レートは頻繁に調整され、時期によっては毎日調整されています。20198月時点では1USドル=23,200ドンです。日本円/ドン、USドル/ドンの為替レートの推移を見てみると、数年来ドン安が続いてきました。


       

      【対円為替レートの推移】

       
       

      出所:Bloomberg

       


       
      出所:Bloomberg
       

       

      輸出品目の国際競争力強化と高成長を優先して、ドン安を容認してきたベトナム政府と中央銀行が、2011年に方針を転換して、為替の安定を優先したことが結果として表れています。円/ドンでは、アベノミクスによる円安を受けて、ドン高となっているのがわかります。これにより、現在、ベトナムから日本への輸出の収支が輸入よりも低くなっているため若干の貿易赤字となっています。

       

       

       
    • 外国直接投資額(FDI)

      1990年代、ベトナムの外国直接投資は、ドイモイ政策の実行とアメリカからの経済制裁の解除以降、順調に伸び始めました。アジア経済危機により大きく後退しましたが、21世紀に入り再び上昇に転じ、2008年には100USドルを超えるに至りました。しかし、世界金融危機とその後の世界経済の低迷と、2011年の金融引き締め政策への転換により経済成長は鈍化し、2009年からはやや低迷しました。その後ベトナムへの外国直接投資全体が低迷しているこの数年であっても、日本からの投資は逆に活発に伸び、20191月時点では過去最大の投資額となっています。日本は長年にわたってODAで港湾や電力などのインフラ整備をしてきました。それによって、投資環境が改善したことはもちろん、ベトナムで日本が投資をする土壌が培われることとなりました。現在、電気・電子産業や二輪産業などの有望な製造業では、ベトナムを生産拠点とマーケットの両面に位置付けた投資が盛んに行われています。また、経済的にも政治的にもチャイナプラスワンの動きが加速していることなど、日本とベトナムはより関係を強めているともいえます。近年では、中国とアメリカとの経済・政治情勢による貿易摩擦によって、中国企業自身も東南アジア等を視野に入れた「チャイナプラスワン」の動きがみられます。拠点を構える場合、中国向けは中国国内に構え、その他の国向けはベトナム現地かその近隣国で拠点を構えてビジネスをする傾向にあります。これによって、ベトナムへ本格的に進出したり、移転を考えたりする企業が増えています。
       
       
       

       
      直接投資受入額を国別・地域別に見てみると、日本、韓国、シンガポール、香港などアジアからの投資が多く、欧米に比べてアジア各国の投資意欲は相対的に高いといわれています。台湾からの投資が古くから盛んでしたが、最近は韓国、シンガポール、香港、中国などからの進出が活発です。世界からの投資が軒並み減少する中で、活発な投資を展開している日本は、2018年には86USドルで全体の約24%を占め、全体としては現在もなお韓国にならび最大の投資国となりました。
       
       

      【出所:ベトナム外国投資庁:FIA
       

      部門別に直接投資を見てみると、ベトナムの産業構造に見合った加工生産をしている製造業が約半数弱%を占めています。次いで、急速に整備されつつあるインフラ(電力や上下水道など)整備に関連して、不動産、建設業などが多くなっています。近年は、人口ボーナス時期に入ったため、生産拠点としての投資から、国内マーケットを期待する内需向けの投資も多くなり、小売・流通の新規の投資が相次いでいます。今後のインフラ整備状況の進捗にもよりますが、さらに多様な投資が見込まれるといわれています。

       
       
    • インフラ

      世界経済フォーラムが行う、「世界競争力レポート(GlobalCompetitivenessReport2018」によると、

      ベトナムのインフラの総合評価は140カ国中75(前年より15位下降)です。他のASEAN諸国と比べてみると、シンガポール(1位)、マレーシア(32位)、、タイ(60位)、インドネシア(71位)、フィリピン(92位)、ブルネイ(54位)、カンボジア(112位)となっており、ベトナムは中位に位置しています。各インフラの評価は、鉄道61位、港湾78位、電力87位、空港22位、道路107位となっています。
       

       

      電力

      不安定であったベトナムの電力事情は、近年は改善されてきています。しかし、経済成長により企業活動が活発になり、個人所得が増えて生活水準が向上したことから、テレビやパソコン、白物家電などの普及により、電力消費量が増えているため、引き続き整備が必須とされています。ベトナム電力グループ(EVN)によると、電力需要は順調に増加しており、10年前の約2倍も増加しています。

      また、水力発電に依存する体質もベトナムの電力供給体制の不安定さにつながっています。ベトナムには、山岳地から沿海部に流れ込む9つの主要河川があり、もともと水力発電に適した環境があるため、総発電量に占める水力発電の割合が高くなっています。現在もなお発電方法として約40%以上が水力発電を利用しています。世界平均が約16%であることからも、ベトナムでの割合の高さがわかります。水力発電はクリーンなエネルギーである反面、降雨量に左右され、水不足になると電力供給が不安定になるといった弱みがあります。約10年前までは渇水の影響で、各地で停電が発生していました。通常、優先的に供給されるはずの工業団地でも当時は一部計画停電が発生しており、製造業に大きなダメージを与えていました。ですが、現在では36,00037,00MWの容量が導入(主要都市南部・北部で35000MWの需要あり)され、電力が保証されています。そのため、干ばつが続いた後も、電力を確保するために努力により、主要都市への電力供給への心配が緩和されています。とはいえ、今後より電力の需要は確実に増加していくと予想され、特に南部での需給の逼迫がはっきり予測されているため、港湾設備を伴う輸入炭による火力発電なども含めて、気候に左右されない安定した電力供給の確保のための多くの発電所建設に力を入れています。また、原子力発電、風力発電、太陽光発電など多岐にわたるエネルギー源の開発が盛んになると見られています。

      過去に、ベトナムでは、東南アジアで初めて原子力発電を導入する予定でしたが、財政難や今後の需要、人材不足、首相の交代など様々な理由によって、現在では白紙となっています。

       

      今後、政府は、『改定第7次国家電力マスタープラン』を掲げて、2030年までには総発電量を現在の約3倍にあたる572,000GWhと、発電設備量を現在の約4倍にあたる129,500MWを目指しています。

       
       

       
      出典:National Electricity System Moderation CenterNLDC